新鮮な生のあじをお茶漬けに
始まりは未利用資源の有効活用でした
弊社の原料は、長崎沖で捕れたあじとさば。
ここで捕れるあじ・さばの味は絶品で栄養価も高く一級品です。
しかし、フィーレ(魚の半身)に加工された残りの部分、『残渣』は一般的には邪魔者扱い、その割合は約6割と魚の半分以上を占めます。
この残渣を有効に活用出来ないか、残渣から何か採れるのか、そしてそれは有効利用が可能なのか。
1995年、残渣の有効利用を目的の一つとして、社長の肝いりで設立された研究室では、様々な研究が長年に亘り続けられてきました。
ある時、魚の皮にはコラーゲンが豊富に含まれていることに着目。これを使って有効活用の第一歩にする。
研究室での意見がまとまり、2006年夏、本格的に未利用資源の活用プロジェクトがスタートしました。
コラーゲンを抽出したものの…
コラーゲンを、未利用資源有効活用の具体的対象に決めてプロジェクトがスタートしてからは、様々な文献を読み漁り、コラーゲンについての性質や抽出方法の勉強をしました。
しかし、文献通りにコラーゲンの抽出を試みたものの、なかなかうまく行かないのです。
あじの皮から抽出したコラーゲン様物質に不純物がたくさん混ざり、臭いのほか見た目も悪い、それに抽出に時間が掛かり過ぎるので効率の悪さも問題でした。
このまま研究を続けるには問題が多過ぎる、おまけにこのやり方だと、後に膨大な設備投資が必要になる。これでは、採算ベースには乗らない。
あじの皮からのコラーゲン抽出を断念せざるを得ない結果でした。プロジェクトを発足してから、ここまでに1年以上が経っていました。
あじエキスという手があった
全てに行き詰まった研究室、みんなが頭を抱えていました。
しかし、前に進まないといけない気持ちだけが焦り進めなくなった時、社長からこんな提案が出されました。
「コラーゲンは加熱するとゼラチンになる。残渣そのものを加熱してゼラチンを含むエキス、すなわちあじのエキスを抽出して、それを商品に利用出来ないか。」
それは、魚を煮付けた煮汁を冷すとプルンプルンと固まり、ゼリー状になる『煮こごり』と言われるものです。これなら加熱するだけでリスクも少なく簡単に取り出せ、設備投資も少額で済む。
研究室は、早速あじエキスの抽出に取り掛かりました。ほんのちょっと視点を変えるだけで、問題がすべて解決したかの様な気になっていました。
簡単と思った抽出、しかし本当の問題はこれからだったのです。
研究開発に欠かせないもの、「試行錯誤」
残渣を加熱して抽出したあじエキスは臭いが強く、色まで悪い、このままでは全く使いものになりそうに無いのです。
抽出は簡単と考えていた研究室ですが、それはとんでも無い思い違いでした。あじの皮からコラーゲンを抽出するのを断念したときの事が、研究室みんなの頭をよぎりました。
しかし、これまで長年の研究生活で、気持ちを強く持つ粘り強さの様なものが、私たちの中には芽生えていました。問題を一つずつクリアしていけば、問題は必ず解決できるはずと、頭を切り替えたのです。
そこで研究室は一番の問題、臭いの解決方法を模索することにしました。原料をどう処理すれば良いのか、前処理は、加熱の条件はと、毎日試行錯誤しながら根気よく試して行きました。
その結果、7ヶ月後の2008年2月には、この問題を解決することが出来たのです。研究開発に欠かせないもの、それは『試行錯誤』でした。
毎日、配合しては食べての繰り返し
お茶漬けの開発も始まりました。
料理の専門家ではない私も、長年のあじに対する様々な研究のお陰で、多少はあじのスペシャリストに成った気でいました。
しかし、お茶漬けにした際に出し汁の役目をする、煮こごり状にしたゼリーに味を付ける難しさに直面したのです。この商品には類似品も無く手本となるものも無い、研究室は勿論、会社としても初めての事なのです。
幸い工場に、元調理師を経験した社員がいました。試作を繰り返すなかで、調味料の使い方や特徴、そして役割など、その道のプロならではの深い技術を教えてもらいました。味にこだわり、見た目も可愛いい形で作りたい。
毎日、毎日、出社しては出汁の煮こごりへ味付けをし、形を整え、お茶漬けで食べる。この繰り返しでした。
会社から帰る時は、何時も腹いっぱい、毎日同じ物を食べる辛さも経験しました。こんな毎日が、1年以上も続いたのです。
研究室のみんなや、品質管理室の同僚、そして元調理師の社員をはじめ工場や営業の人たちにも試食の協力を要請、意見を求めました。何度も何度も試食をしてもらい、『お茶漬け』は、ほぼ完成。
しかし、誰よりもこだわった人が1人いました。社長です。
一番美味しい状態で食べて頂きたい
新鮮なあじを生のまま、お茶漬けに加工して商品にする、そこに弊社の技術力が加わるが
「こだわりの無い商品は商品ではない。人様の口に入るもの、魚本来の味を一番美味しい状態で食べて戴きたい」
魚を愛する社長ならではのこだわりの言葉でした。
毎日捕れるあじも微妙に違う。その味を調えて最高の状態に持っていく微調整が始まったのです。
結局この微調整には、お茶漬けが発売されるギリギリまで、5ヶ月を要しました。
社長から最終OKが出るまでの、ひと踏ん張りでした。
人の手で作るのと機械との違い
研究室での、あじ茶漬け開発が一旦完了。
いよいよ機械による商品作りです。
ところが、ここに来て問題が発生。人の手で作るのと機械との違いで、商品の容器の中に空気が大量に混入、胡麻やネギが浮いてしまい、シールできないなどのトラブルが起きたのです。
商品化に向けた最後の部分は、研究室だけで解決できる問題ではないことは分かっていました。解決には、工場の人たちの助けが必要でした。
製造現場で頑張る熟練した技術者にしか出来ない技で、解決してくれたのです。
一つの商品開発に向けた社員みんなの思いが、問題解決に繋がった瞬間でした。
全国水産加工総合品質審査会で受賞しました
2006年夏、プロジェクトがスタートして3年、並行して進められたお茶漬けの開発にも2年の歳月を掛けて出来上がった『ごまあじ茶漬』。これが世に出て受け入れられるのか、心配で心配でたまりませんでした。
2010年11月『第21回全国水産加工品総合品質審査会』で、出品数1504点の中からなんと、『ごまあじ茶漬』が『全水加工連会長賞』を受賞したのです。
東京銀座で行われた授賞式に出席、その後、ジワーッと「世に認められたすごい商品なんだ」と言う実感が湧いてきました。
お茶漬けの開発を始めて、毎日試作品を食べたことや、本屋さんで料理本をいっぱい買い込んで勉強したことなど、昨日のように思い出され、一つの商品開発には、様々な人が関わり、知恵と技術、そしてその商品への夢と情熱が必要なんだと感じました。
そして何より、長い間じっと見守り開発の時間と費用を捻出して頂いた、社長に感謝しています。
お客様の生活に寄り添った商品作りを
食品研究室の重要な仕事の一つ、商品開発。今後の商品開発では『ごまあじ茶漬』のような、お客様の生活に身近な商品を作りたいと考えています。
まずは『海鮮贅沢茶漬シリーズ』を、そして弊社が得意とするあじ・さばを中心とした魚をより美味しく、見た目も美しく食欲をそそられるような食品を開発したいと夢は膨らんでいます。